ホーム > 研究会アーカイブス > 基本概念 辻井啓作氏
「下請」という概念について 辻井啓作氏
(1)あえて「下請」にこだわる独立開業研究会
下請という言葉は、あまり良い意味でなく使われることが多いようです。ですから、発注企業は下請企業のことを協力企業と呼び換えたり、行政の外郭団体の下請企業振興協会の都道府県の窓口は中小企業振興公社等の呼び名に変わったりしています。
しかし、中小企業診断士独立開業研究会では、あえて「下請」にこだわりたいと考え、実践してきました。その理由を紹介したいと思います。
(2)下請構造=ダメ ではない
下請企業というと、親会社(発注企業)の無理難題に苦しめられている中小零細工場というイメージです。値引きをはじめとする無理な要求に応えて四苦八苦し、果ては製造拠点の海外移転のあおりを受けて経営破綻、という感じでしょうか。
実際にそうした工場も多いのですが、一方で、優良自動車メーカーの部品の製造を行い続けて自らも一部上場まで大きくなったメーカーや、大手コンビニエンスストアの弁当工場として拡大し、上場している企業も存在します。また、下請として身につけた技術やノウハウをもって自社ブランドを立ち上げ、成功している企業も少なくありません。
(3)下請構造は自然にできるもの
そもそも、下請構造というものは、誰かが設計したものではなく、自然に発生するものです。儲かる仕事をしている人間(企業)には、おこぼれを求める人間(企業)が集まってくるものなのです。
何となく自動車メーカーや電機メーカーのイメージが強い下請構造ですが、最近ではITやコンテンツ分野の下請構造のほうが厳しく重層的だといわれます。構造が未成熟であることが原因ですが、この混沌とした状況は、新たに出現した儲かる分野に多くの企業が一気に参入したから生じたと思われます。これから、これら分野の下請構造の整理が進むと考えられますが、このような新しい分野での下請構造の発生は、それらが誰かの意思ではなく自然発生的に生じるものだということを示していることに他なりません。
自然に発生するものに対して、是非を問うことはナンセンスです。発生することを前提として、それをどう活かすかを考えることが重要であることは言うまでもありません。
(4)下請のメリット
もちろん、こうした下請構造は日本において顕著に見られる特色だという声もあります。確かに諸外国に比して、日本の垂直的分業は製造分野でも流通分野でも複雑で重層的です。
その理由については、ここで考察することはありませんが、こうした下請構造を構築しつつ、その中で長期安定的な取引がなされてきたことが日本の高度成長を支える一要因になったことは広く知られています。
理由は、多数の主体による分散的な投資がなされること、専門分野に特化することで技術の発達がなされること、生産量の増減などのリスクに対応しやすいこと、低コストで労働力を確保することができること、などでしょうか。
また、それに長期安定的な取引による取引コストの削減や、技術移転(指導)による技術力の向上も要因に加わるでしょう。
しかし、私見ではありますが、それ以上に重要な要素は、いかに長期安定取引といっても、所詮は下請取引関係であることから、常に「仕事を切られる」危機感をもって仕事をする環境にあったことではないかと考えています。おなじ自動車一台を考えてもアメリカの自動車を作るのに危機感を持って取り組んだ経営者が、自動車メーカーと材料のメーカー数社、ガラスメーカーとタイヤメーカーの社長くらいだとすると、日本の車では、それぞれの材料、部品加工等の工場の社長、数百人が危機感を持って、場合によっては納期前に徹夜をして携わっているのです。
最近では、その関係が馴れ合いになっているメーカーもないではありませんが、少なくとも高度成長期にはこのような緊張感のある関係が、日本の成長を支えていたのではないでしょうか。
話が長くなりました。ここで、下請構造について賞賛しても仕方がありませんので、下請側のメリットに戻りたいと思います。
下請をする側のメリットとして、エンドユーザーに対して営業をせずとも仕事が得られる、ということがあります。現実問題として営業力も、信用も、また対価が得られるだけの商品やサービスも満足にもっていない企業や個人としては、「下請に甘んじている」理由の大半がこのことだと思われます。ですから、このことはメリットというより、下請の定義みたいなものかもしれません。
しかし、下請にはそれ以上のメリットがあります。それは、発注元から仕事の進め方についての指導が受けられること、そして仕事の内容について発注元がチェックし、責任を負ってくれることです。仕事に不慣れな、企業や個人にとって、これほど有難いことはありません。このことにより、下請は仕事をしながら、仕事を覚え、技術を蓄えることができるのです。
その反面、利益が薄いことや、取引条件を発注企業に決められているなどのデメリットもあります。それでも、仕事に対する経験の薄い時期には、メリットのほうがはるかに大きいと考えられるでしょう。
こうしたメリットから、下請取引は、企業同士の徒弟制度だと解釈できます。徒弟制度では、一人前と認められるまでは安い賃金で働きます。そのかわりに技術や仕事のノウハウを指導され、身につけることで独立のチャンスを得ることができます。下請取引も同様に、「鍛えてもらう」機会なのです。
(5)脱下請より超下請
「脱下請より超下請」というのは、私が独立前に行政の外郭団体に勤務し、下請企業の相談にのっていたときのキーワードです。
当時は、親会社の言うがままに取引条件を決められる下請企業より、小さくても自社ブランドの製品を開発して脱下請を図る、というのが世の中の方向性、行政や私の勤務していた機関でもそのように啓蒙を行っていました。
しかし、私自身はそれに違和感を感じていました。というのも、少数ではありますが下請でありながら、私の目から見ればかなりわがままな取引条件を押し通して利益を上げ、活き活きとしている企業や、親会社からの要求に対して別に困ったそぶりもなく対応できる企業もあったからです。つまり、下請であっても優良企業は存在していたのです。
こうした企業は特定の分野に技術面で特化し、親会社の意向を先回りして実現します。仕事の打ち合わせの際も、常に提案を行い、話をリードしています。これらの企業は、下請として親会社に「鍛えてもらう」期間は、はるか昔に終了し、逆に親孝行の時期に入っているので、自由闊達に取引ができるのです。
これこそが下請企業が目指す姿だと私は考え、密かに「超下請」と名づけました。
「脱下請」に反対の理由をさらに続けます。
先に紹介したような企業は脱下請などという考えを持っていません。経営に困っていないからです。また、自身がリスクをとる場所はマーケティングではなく技術開発だと考えているからでもあります。もちろん、中には自社ブランドでの製品開発を始める企業もありますが、この場合でも、「一部の下請」→「全体の下請」(発注側から見た場合には「丸投げ」になる)→「自社製品化」という過程を踏んでいるので、リスクはかなり限定できるのです。
それに対して、「脱下請」を考える企業は、現状があまりうまくいっていないケースが大半です。極端な言い方かもしれませんが、直接の取引先(発注企業)の満足度を高めるマーケティングができない会社が、直接取引きをする訳ではなく、目に見えないエンドユーザーの気持ちを掴めるマーケティング力があるのか、答えは明らかです。
もちろん、脱下請の掛け声のもと、全国で数千、数万の下請中小企業が製品開発を行えば、中には運良く脱下請を果たせる企業もないではないでしょう。こうした企業が成功事例として紹介されるので、余計に脱下請の号令に拍車がかかったのです。しかし、それはあくまで確率の問題で、実際には多くの企業が製品開発に失敗しているのです。
ですから、下請企業がまず目指すのは、「超下請」であり、「脱下請」ではない。しかし、超下請になれるなら、脱下請の可能性も見えてくる。というのが私の持論です。
もちろん、自分自身もそうあり続けたいと考えています。
(6)最終的に目指す姿が下請である必要はない
ただし、誤解のないように申し添えますと、最終的に超下請として成長せよ、と言っているのではありません。経験の少ない分野では、まず下請けとして力を蓄え、さらにそれを成長させた上で、どのように発展していくかを決めるべきということです。
中小企業診断士として独立する際にも、勤務時代に十分に力を蓄えている人材が改めて下請をする必要はありません。しかし、資格を取っただけであったり、組織の中でノウハウを蓄えてもそれを取引として活かしたことがない場合には、まず下請をして、力を蓄える必要があると考えています。どれほど机上で学んでも、実際に仕事をしてみないことには、それが使える知識かどうかは不明だからです。
そう考えると、下請構造は、業界への新規参入に対して、非常に便利なシステムだとも考えられます。まず、下請として経験を蓄積し、自身の適正を見出すことが多くの人にとっての独立成功への早道だと考えています。 明確な下請構造がない中小企業診断士業界、ここで問題が発生します。それは、中小企業診断士業界の下請構造はあいまいで、実際にはどこで仕事が発生しているかは、なかなかわからないのが実情だということです。あいまいな世界にはルールも存在せず、また下請金額も驚くほど低額になりがちです。
中小企業診断士独立開業研究会は、こうした問題を解決するため、下請仕事の窓口となること、下請として仕事を得るために必要な心構えや仕事の進め方、仕事の請け方などを学ぶことを目的に開催しています。
この研究会を継続することで、下請を通して真に独立される中小企業診断士が増え、そのことがさらに研究会に還元されるしくみが確立することを切に願っています。
